引っ越しの朝、天井を眺める
あと数日で実家を出る、名古屋に引っ越すんだ、
となったとき、毎日目が覚めるたびに、
「ああまだこの天井だ」となんだかホッとしていた。
白い天井、視界の左端には丸いシーリングライト、
右端には茶色いタンス。
小学生くらいの頃から、ずっと見てきた天井。
*
引っ越してはじめて新しい部屋で眠りにつくとき、
何も音がしない空間がさみしかったから、
真っ白い壁に間接照明のライトをつけて、
ちょっとだけ可愛くなった壁を見てひとりで笑った。
やわらかいオレンジのライトに照らされた天井は、
見慣れた天井よりも少し低くて、
視界の左端には窓があって
丸いシーリングライトは右側に見えた。
知らない空間、知らない天井の中で、
実家からもってきた布団だけは知っている空間。
目が覚めても、やっぱり目の前に広がっていたのは
昨日の夜見た知らない天井で、
これから私はここで暮らしていくんだなと、
この先、毎日私が見上げるのはこの知らない天井なんだな
と思いながら、前日の夜さんざん泣いたはずだったのに
またひとりで泣いた。
*
もう少し広い家を求めて引っ越すことを決めたとき
また目が覚めるたびに、
「ああまだこの天井だ」と思っていた。
見慣れた高さの天井で、
視界の左端は、お気に入りのカーテンの花柄。
少し視線を上にやると、お気に入りのバンドのポスター。
視界の右端は、丸いシーリングライト。
およそ1年間過ごしたこの部屋で、
いつのまにか「知っているもの」になっていた天井。
引っ越し当日の朝、はじめてここに来た日は、
さみしくてさみしくてずっと泣いてたなぁと
懐かしく思いながら、私のはじめての一人暮らしを
支えてくれたこの小さな部屋に、さよならを言った。
好きなものをたくさん詰め込んだこの部屋が
大好きだった。
*
引っ越してはじめて新しい部屋で眠りにつくとき。
前の部屋よりも少しだけ高くなった天井を見ていた。
視界の右端には窓があって、とりあえずつけた
お気に入りの花柄のカーテンの高さが全然足りなくて、
カーテンの先がひらひらしていた。
丸いシーリングライトは、視界の左端に。
さらに左を向くと、向こう側にはリビングが見えて、
なんて広いお部屋なんだとひとりでにんまりした。
上を見るとお気に入りのポスターがかけてあって
この部屋でもよろしくと思ったりした。
よろしく、新しい天井。
多分いつのまにかこの天井にも慣れて、
そして天井のことなんて何も考えず、
ただ目が覚める毎日がはじまる。