引っ越しの朝、天井を眺める

あと数日で実家を出る、名古屋に引っ越すんだ、

となったとき、毎日目が覚めるたびに、

「ああまだこの天井だ」となんだかホッとしていた。

 

白い天井、視界の左端には丸いシーリングライト

右端には茶色いタンス。

小学生くらいの頃から、ずっと見てきた天井。

 

 

引っ越してはじめて新しい部屋で眠りにつくとき、

何も音がしない空間がさみしかったから、

真っ白い壁に間接照明のライトをつけて、

ちょっとだけ可愛くなった壁を見てひとりで笑った。

 

やわらかいオレンジのライトに照らされた天井は、

見慣れた天井よりも少し低くて、

視界の左端には窓があって

丸いシーリングライトは右側に見えた。

知らない空間、知らない天井の中で、

実家からもってきた布団だけは知っている空間。

 

目が覚めても、やっぱり目の前に広がっていたのは

昨日の夜見た知らない天井で、

これから私はここで暮らしていくんだなと、

この先、毎日私が見上げるのはこの知らない天井なんだな

と思いながら、前日の夜さんざん泣いたはずだったのに

またひとりで泣いた。

 

 

もう少し広い家を求めて引っ越すことを決めたとき

また目が覚めるたびに、

「ああまだこの天井だ」と思っていた。

 

見慣れた高さの天井で、

視界の左端は、お気に入りのカーテンの花柄。

少し視線を上にやると、お気に入りのバンドのポスター。

視界の右端は、丸いシーリングライト

 

およそ1年間過ごしたこの部屋で、

いつのまにか「知っているもの」になっていた天井。

 

引っ越し当日の朝、はじめてここに来た日は、

さみしくてさみしくてずっと泣いてたなぁと

懐かしく思いながら、私のはじめての一人暮らしを

支えてくれたこの小さな部屋に、さよならを言った。

 

好きなものをたくさん詰め込んだこの部屋が

大好きだった。

 

 

引っ越してはじめて新しい部屋で眠りにつくとき。

前の部屋よりも少しだけ高くなった天井を見ていた。

 

視界の右端には窓があって、とりあえずつけた

お気に入りの花柄のカーテンの高さが全然足りなくて、

カーテンの先がひらひらしていた。

丸いシーリングライトは、視界の左端に。

 

さらに左を向くと、向こう側にはリビングが見えて、

なんて広いお部屋なんだとひとりでにんまりした。

上を見るとお気に入りのポスターがかけてあって

この部屋でもよろしくと思ったりした。

 

よろしく、新しい天井。

多分いつのまにかこの天井にも慣れて、

そして天井のことなんて何も考えず、

ただ目が覚める毎日がはじまる。