一瞬、ジョーに裏切られた気持ちになった。
『ストーリーオブライフ 私の若草物語』
を観てきました。
いろんなところに共感して、しんどかった…
過去と現在の対比がとても美しくて切なかった。
役者さん、ストーリー、構成、演出、衣装、景色、
もう全部とてもよかった。。
あととても些細なところなのですが
ジョーがずっと書き続けるために
両利きを会得してるのが
めちゃくちゃかっこいいです。
--以下、 観ていない人への配慮皆無の内容です--
ジョーがベア先生を雨の中追いかけて、
最後結婚するところを観て
単刀直入に言うと裏切られた気分になりました。
原作の『若草物語』にある内容だから、
そんなこと言われましてもって感じ
だとは思うんだけど。。
あれだけ結婚だけが女の幸せじゃない
と叫んでいたジョー。
あのシーンで「結婚が幸せ」と考えている
メグとエイミーに背中を押されて、
結婚という幸せに向けて雨の中走るジョー。
とても幸せそうで、楽しそうで、
素敵なシーンだなとは思うのですが、
ずっとジョーに共感しながら
物語を追っていた身としては
「なんだ、結局あなたも結婚するんじゃないの」
という気分になりました。
結婚だけが幸せじゃないと思っているのに
どうしようもなく孤独、とジョーが言っていたとき
本当に胸が痛くて、でもジョーはとても強い人だから
結婚以外の形で彼女らしい幸せを掴んでくれるんだろうと
思っていたので、あのシーンは急にジョーが私を置いて
違うところへ走り去ってしまったような気がして、
そこだけがずっと違和感として残っていました。
*
この違和感は、3つの要素によって
自分の中で緩和されて、
最終的には救われた気分になりました。
ひとつめは、ジョーが、出版社の編集長に
「ヒロインを結婚させないと売れない」
と言われ、反論しつつも最終的には
「わかった、お金のためにヒロインを結婚させる」
と言うシーン。
ふたつめは、実際の『若草物語』の著者である
ルイーザ・メイ・オルコットは
生涯独身のままで過ごした女性であるということ。
みっつめは、監督のグレタ・カーヴィグ
によって語られた
「オルコットは、本当はジョーを結婚させたくなくて、
出版社の言いなりになったことでジョーを結婚させた。
そして、そのオルコットの本当の思いを尊重して、
今回の映画にはジョーが出版社の編集長と言い合う
シーンを入れた」という事実。
*
この映画は、
『若草物語』を映画化したお話、という要素と、
その作者オルコットの半生をジョーを通して描いた
『「若草物語」ができるまで』のお話、
という要素のふたつの側面があると思っています。
鑑賞中は結局どっちなのか分からないままで、
だからジョーの結婚にも大パニックでしたが(笑)
あとから考えたら、
・編集者に対して『お金のために結婚させる』
と言ったジョーはオルコットを描いた姿
・ベア先生と結婚したジョーは、
『若草物語』の中のジョー
と整理することができました。
シアーシャ・ローナンは「ジョー役」だけど、
実はたまにジョーの姿を飛び越して
「オルコット役」になっている。
たまに、ジョーを通してオルコットの姿が見える。
『若草物語』のジョーがオルコット自身を
投影した登場人物である、という事実を
とても丁寧に映画の構成に組み込んでいるところと、
役を飛び越しちゃってるところが
おてんばなジョーらしくて、とても好きです。
*
同時に思ったのが、『若草物語』の読者の方々は
ジョーに裏切られた気分にはならなかったのだろうか、
ということ。原作をちゃんと読んでいないので、
もしかしたら小説ではもう少し丁寧に結婚までの過程を
描いているのかもしれないけど…。
でももし、そんな読者の方々がいるのだとすれば
その方たちにとっても救いとなる映画なのかな
と勝手に思ったりもしました。
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あとは関係のない余談
(ほかに好きだったところについて言いたい)
*矛盾した感情がリアル
結婚だけが幸せじゃないとわかってるのに孤独、
自立したいのに少女時代が終わってほしくない、
など、いろんな矛盾した感情がジョーの中には
渦巻いていて、その感情のすべてが
とてもリアルで、わかりすぎて痛かったです。
実際の感情なんてこんなふうに矛盾だらけ。
こういう矛盾した感情とか行動とかがあるからこそ
よりこの映画は観た人にとって
共感することでホッとできたり、
自分を投影して切なくなったりと、
心の中に深く入りこむ作品になり得るのかな
と思いました。
*邦題について
『Little Women』という原題が大好きです。
実際の四姉妹のお父さんが彼女たちに
敬意を示してそう呼んでた
というエピソードも素敵だし、
まだ「子供」の年齢なのにそれぞれ芯があって、
それぞれ自立した美しい女性であるところが
まさしく「Little Women」という感じがするし、
そしてオルコットがその単語をタイトルに選んだ
という事実が、姉妹同士がお互いのことを尊重しあって
いたことを表しているようで、とても愛しい。
響きも凛としていてとても好き。
なので、この映画の邦題を見たとき
何してくれてるんだと怒り心頭でした。笑
でも、出版社でのジョーの姿だったり、
製本の様子を愛おしそうに見ているジョーを
見ていると、たしかにこの映画は
ジョーそしてオルコットを描いた物語だし、
この愛しすぎる家族の物語は
ジョーそしてオルコット自身のためにある物語なんだ
ということをひしひしと感じたので、
鑑賞後に改めて邦題を思うと、
ちょっとダサいけど、
いいタイトルだなと思いました。
*過去と現在の対比が切なすぎる。
冒頭でも書いたけどこの構成が本当に胸を打つ。。
特にベスがいなくなってしまったところ。
ほかにも、にぎやかだった家とガランとした家。
みんなで身を寄せ合っていた日々と、
各々がひとりで過ごす日々。
あんなに賑やかで輝いていた過去、
もう二度と戻れない愛しい毎日。
近頃、過去には本当に戻れないことを
痛感するばかりでつらいです。
*誰よりも家族を愛していたベスに、
家族の物語をささげてるところ。
これがオルコット自身のエピソードなのか
映画オリジナルのエピソードなのかは
分からないのですが、姉妹の中で一番家族を
大切にしていたベスのために書き続けた
というのがとても素敵でした。
エピソードのひとつひとつが温かさに
溢れているのは、ジョーのベスに対する
愛の深さゆえのような気がします。
*シアーシャ・ローナンがまるで代弁者で
びっくりしている
『レディ・バード』のときは、
主人公が親に向かって「これまで私を育てるのに
かかった費用数えてみてよ」みたいなことを
言うところで号泣したのですが、
今回の「結婚だけが幸せじゃないと
分かってるのに、どうしようもなく孤独」
という言葉といい、
シアーシャ・ローナンは人のちょっとひねくれた
感情を代弁するおそろしい人だなと思っています。
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総じて本当にいい映画だった。。
挫折した『若草物語』を読んで
もう一回観に行きたい。