一瞬、ジョーに裏切られた気持ちになった。

『ストーリーオブライフ 私の若草物語

を観てきました。

いろんなところに共感して、しんどかった…

過去と現在の対比がとても美しくて切なかった。

役者さん、ストーリー、構成、演出、衣装、景色、

もう全部とてもよかった。。

 

あととても些細なところなのですが

ジョーがずっと書き続けるために

両利きを会得してるのが

めちゃくちゃかっこいいです。

 

--以下、 観ていない人への配慮皆無の内容です--

 

 

ジョーがベア先生を雨の中追いかけて、

最後結婚するところを観て

単刀直入に言うと裏切られた気分になりました。

 

原作の『若草物語』にある内容だから、

そんなこと言われましてもって感じ

だとは思うんだけど。。

 

あれだけ結婚だけが女の幸せじゃない

と叫んでいたジョー。

あのシーンで「結婚が幸せ」と考えている

メグとエイミーに背中を押されて、

結婚という幸せに向けて雨の中走るジョー。

 

とても幸せそうで、楽しそうで、

素敵なシーンだなとは思うのですが、

ずっとジョーに共感しながら

物語を追っていた身としては

「なんだ、結局あなたも結婚するんじゃないの」

という気分になりました。

 

結婚だけが幸せじゃないと思っているのに

どうしようもなく孤独、とジョーが言っていたとき

本当に胸が痛くて、でもジョーはとても強い人だから

結婚以外の形で彼女らしい幸せを掴んでくれるんだろうと

思っていたので、あのシーンは急にジョーが私を置いて

違うところへ走り去ってしまったような気がして、

そこだけがずっと違和感として残っていました。

 

 

この違和感は、3つの要素によって

自分の中で緩和されて、

最終的には救われた気分になりました。

 

ひとつめは、ジョーが、出版社の編集長に

「ヒロインを結婚させないと売れない」

と言われ、反論しつつも最終的には

「わかった、お金のためにヒロインを結婚させる」

と言うシーン。

 

ふたつめは、実際の『若草物語』の著者である

ルイーザ・メイ・オルコットは

生涯独身のままで過ごした女性であるということ。

 

みっつめは、監督のグレタ・カーヴィグ

によって語られた

「オルコットは、本当はジョーを結婚させたくなくて、

出版社の言いなりになったことでジョーを結婚させた。

そして、そのオルコットの本当の思いを尊重して、

今回の映画にはジョーが出版社の編集長と言い合う

シーンを入れた」という事実。

 

 

この映画は、

若草物語』を映画化したお話、という要素と、

その作者オルコットの半生をジョーを通して描いた

『「若草物語」ができるまで』のお話、

という要素のふたつの側面があると思っています。

鑑賞中は結局どっちなのか分からないままで、

だからジョーの結婚にも大パニックでしたが(笑)

あとから考えたら、

 

・編集者に対して『お金のために結婚させる』

 と言ったジョーはオルコットを描いた姿

・ベア先生と結婚したジョーは、

 『若草物語』の中のジョー

 

と整理することができました。

 

シアーシャ・ローナンは「ジョー役」だけど、

実はたまにジョーの姿を飛び越して

「オルコット役」になっている。

たまに、ジョーを通してオルコットの姿が見える。

 

若草物語』のジョーがオルコット自身を

投影した登場人物である、という事実を

とても丁寧に映画の構成に組み込んでいるところと、

役を飛び越しちゃってるところが

おてんばなジョーらしくて、とても好きです。

 

 

同時に思ったのが、『若草物語』の読者の方々は

ジョーに裏切られた気分にはならなかったのだろうか、

ということ。原作をちゃんと読んでいないので、

もしかしたら小説ではもう少し丁寧に結婚までの過程を

描いているのかもしれないけど…。

 

でももし、そんな読者の方々がいるのだとすれば

その方たちにとっても救いとなる映画なのかな

と勝手に思ったりもしました。

 

 

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あとは関係のない余談

(ほかに好きだったところについて言いたい)

 

*矛盾した感情がリアル

結婚だけが幸せじゃないとわかってるのに孤独、

自立したいのに少女時代が終わってほしくない、

など、いろんな矛盾した感情がジョーの中には

渦巻いていて、その感情のすべてが

とてもリアルで、わかりすぎて痛かったです。

 

実際の感情なんてこんなふうに矛盾だらけ。

こういう矛盾した感情とか行動とかがあるからこそ

よりこの映画は観た人にとって

共感することでホッとできたり、

自分を投影して切なくなったりと、

心の中に深く入りこむ作品になり得るのかな

と思いました。

 

 

*邦題について

『Little Women』という原題が大好きです。

 

実際の四姉妹のお父さんが彼女たちに

敬意を示してそう呼んでた

というエピソードも素敵だし、

まだ「子供」の年齢なのにそれぞれ芯があって、

それぞれ自立した美しい女性であるところが

まさしく「Little Women」という感じがするし、

そしてオルコットがその単語をタイトルに選んだ

という事実が、姉妹同士がお互いのことを尊重しあって

いたことを表しているようで、とても愛しい。

響きも凛としていてとても好き。

 

 

なので、この映画の邦題を見たとき

何してくれてるんだと怒り心頭でした。笑

 

でも、出版社でのジョーの姿だったり、

製本の様子を愛おしそうに見ているジョーを

見ていると、たしかにこの映画は

ジョーそしてオルコットを描いた物語だし、

この愛しすぎる家族の物語は

ジョーそしてオルコット自身のためにある物語なんだ

ということをひしひしと感じたので、

鑑賞後に改めて邦題を思うと、

ちょっとダサいけど、

いいタイトルだなと思いました。

 

 

*過去と現在の対比が切なすぎる。

冒頭でも書いたけどこの構成が本当に胸を打つ。。

特にベスがいなくなってしまったところ。

ほかにも、にぎやかだった家とガランとした家。

みんなで身を寄せ合っていた日々と、

各々がひとりで過ごす日々。

あんなに賑やかで輝いていた過去、

もう二度と戻れない愛しい毎日。

 

近頃、過去には本当に戻れないことを

痛感するばかりでつらいです。

 

 

*誰よりも家族を愛していたベスに、

 家族の物語をささげてるところ。

 

これがオルコット自身のエピソードなのか

映画オリジナルのエピソードなのかは

分からないのですが、姉妹の中で一番家族を

大切にしていたベスのために書き続けた

というのがとても素敵でした。

エピソードのひとつひとつが温かさに

溢れているのは、ジョーのベスに対する

愛の深さゆえのような気がします。

 

 

シアーシャ・ローナンがまるで代弁者で

 びっくりしている

 

レディ・バード』のときは、

主人公が親に向かって「これまで私を育てるのに

かかった費用数えてみてよ」みたいなことを

言うところで号泣したのですが、

今回の「結婚だけが幸せじゃないと

分かってるのに、どうしようもなく孤独」

という言葉といい、

シアーシャ・ローナンは人のちょっとひねくれた

感情を代弁するおそろしい人だなと思っています。

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総じて本当にいい映画だった。。

挫折した『若草物語』を読んで

もう一回観に行きたい。