伝説すらも幻

今でこそ音楽がないと生きていけないタイプの根暗ですが、

一番好きなアーティストに出会うまでは

本を心の拠り所にするタイプの根暗でした。

 

村山早紀さんという方の『風の丘のルルー』シリーズが小学生の頃から好きで、

文章を書き始めたのも思えばこのシリーズがきっかけだったし、

Twitterのようなものがなかった当時、掲示板というものに初めて投稿したのも

この作家さん自身が運営していた感想サイトでした。

掲示板はダメなもの、という認識が学校から刷り込まれていたので

ちょっとだけ罪悪感を覚えつつ、でも遠くに住んでいる同じ本が好きな

お友達とのやり取りはとても楽しくて、たまに作家さん自身も投稿を

してくださったりしていて、ある日突然その掲示板は消えてしまったのですが

今でも大事な思い出として心に残っています。

 

本の内容としては魔女のルルーが風の丘という辺境の地で、

喋るぬいぐるみのペルタと一緒に暮らしていて、

そこを訪れる病人や怪我人を魔法の薬で治してあげている、

という設定がベースとしてあります。

そこでの出会いとか出来事をきっかけに遠くに出かけて、

時には時空も超えたりして、沢山の冒険をするという感じ。

 

なかなかファンタジーな言葉が並びますが、フワフワして可愛いだけで終わる

お話ではなく、内容としてはなかなかにシビア。

魔女狩りや疫病で家族を失ったことが背景としてあるのもそうだし、

冷酷な人が残酷なことするし。

最近ちゃんと読んでないのでパッとは思い浮かばないんだけど

世界観のわりには現実的なんですよね。

 

あとがきによれば作者さんのヨーロッパに住んでいるお友達が

手紙で教えてくれる、その地に伝わる伝説が基となっているとのことでした。

「白鳥の王国」というところにいた魔女の女の子の伝説をそのお友達が

気に入って、新情報が分かるたびにお知らせしてくれるのだとか。

いつかその国に私も行こう、みたいなことを考えたりもしてました。

 

児童文学なので年齢が上がるにつれて手に取る本の趣向も変わり、

本棚の奥で埃をかぶるようになってしまったのですが

ある日たまたま図書館で『その本の物語』というのを見つけて。

これも村山早紀さんの本なのですが、風の丘シリーズが好きな女の子が、

入院していて意識が戻らない、同じくルルーファンの親友のベッド脇で

このシリーズの本を1冊ずつ朗読するというもの。

その朗読場面に合わせて『風の丘のルルー』の各話も収録されているという

構成になっています。

最後にはルルーの正体も明らかになるという、風の丘シリーズを嗜んだ者

としては涙腺崩壊不可避の激アツな本です(語彙力ないのが一瞬でバレた)。

 

とても懐かしい気持ちで読んだものの、同時に続編はもう出ないんだな、

という言いようのない寂しさを感じたりもしました。

心の中にずっといたルルーが昇華されたような。

風の丘シリーズはこれをもって正式に完結したんだなと。

実質最終巻の7冊目『魔女のルルーと楽園の島』刊行から10年が経った

2014年に書かれた本なので、リアルタイムに読んでいた読者が

ちょうど、またはそろそろ、大人になるかなというタイミングでの刊行。

なんとなくですが、とてもこの作家さんらしいなと思いました。

 

寂しくはありましたがその時感じたのは決してネガティブな感情ではなくて、

楽園の島以降もルルーはルルーらしく生きていたんだなという安心感、

ルルーは立派な魔女になって、私も大人になって、

そんなふうに一緒に大きくなれたこと、

そして成長した後に再会することができたこと、

に対する喜びが大きかったように思います。

小学校の時からずっとまっすぐ伸びてきていた糸がここで切れて、

綺麗な丸い糸玉になったような、そんな感覚を覚えました。

 

同時に、白鳥王国、魔女の伝説を調べたんですが出てこなくて。

他にも各物語のモチーフになっていた王国とか、竜とか、

色々検索してみたけど本当に何ひとつとしてヒットしない。

  

白鳥王国にいた魔女の子の伝説って本当にあるのかなぁ

とぼんやり考えていたのですが、多分、ないんだろうなと思いました。

あとがきってフィクションの世界を離れて、現実の世界で書かれる文章、

という認識だったのですが、というか実際そうであるはずなのですが、

風の丘シリーズに関してはおそらく、そこすらもフィクションだったのでしょう。

 

赤毛の魔女の子ルルーが住んでいる架空の、昔の世界だけではなくて

今も存在している遠くのヨーロッパの国にも思いを馳せるところまでが

この物語を楽しむセットだったのかもしれない、と10年越しに思いました。

これも、とてもなんとなくだけど村山早紀さんらしいなと。

 

今でこそ洋楽を好んだり旅行が好きだったりで海外のことにも興味津々ですが、

小学生の時は特にそんなことなくて。

むしろ本さえあればいい、みたいな超インドアなタイプでした。

 

そんな中でも、ルルーの面影を探しにヨーロッパに行きたいなぁと

少しでも海外のことを考える機会があったのは、

あのあとがきがあったからだろうなと思います。

 

きっと『風の丘シリーズ』は知らない間に自分の意識の中にある

世界を広げてくれていたんだな、と思うのです。

 

もちろんフィクション上に広がる世界も自分の世界を広げてくれるけど、

実際生きているのはこの現実の世界。

いくら空想の世界をひろげていったとしても、

やっぱりこれだけでは、現実の人生を完全に彩ることはできない。

 

だからフィクション上に存在する風の丘だけではなくて、

現実に存在するヨーロッパの国にも意識を向けられるように、

あとがきにも細工を加えていてくださったのかな、と思うわけです。

 

私が勝手に思っていることなので実際の村山早紀さんの意図は知りません。

あと白鳥王国についても私が検索下手なだけかもしれない。。

本当にあるのならそれほど嬉しいことはないですね。

 

 

と考えたことを書き残すための文章でした。

多分ここまで読んでる人いないし完全に自己満足です。

そのため誰に向けて書いたものでもありませんが、

もしも、ある日突然風の丘に住んでいる女の子を思い出して

久しぶりに書名で検索するなどということをした私みたいな人、

もしかしたら昔のお友達、の目に留まるようなことがあれば

すごくドキドキするし、すごく嬉しい。